長崎の交通事故の裁判例解説
昭和57年7月27日長崎地方裁判所判決
【事案】
加害車両の運転手が居眠り運転し,駐車中の貨物自動車に追突し,その衝撃により,加害車両に同乗中の被害者を負傷させた事件につき,被害者には後遺障害(歩行困難、正位困難、左片足立ち困難、正座不能等)が生じたが,被害者は恋愛関係にある運転手の依頼により,同運転手の眠気覚ましのためとして同乗したため,信義則上,損害の3割を減額された。
【解説】
裁判所は,いわゆる好意同乗を理由に,損害額の3割を減額しました。
最近の裁判所は,被害者が無償で同乗していたというだけでは減額せず,被害者にも責められるべき点があるような場合に限って,減額する傾向にあります。
本件では,運転者の眠気覚ましのために同乗していたにもかかわらず,居眠り運転を止めなかったため,裁判所は被害者にも責められるべき点があると判断し,損害額の3割を減額したものと考えられます。
掲載文献:交通事故民事裁判例集15巻4号961頁
平成17年10月28日長崎地方裁判所大村支部判決
【事案】
加害車両が,交差点を右折する際,青信号に従って横断歩道を自転車で走行していた被害者に衝突した事故。
被害者は,海上自衛官であり,外貌醜状(7級12号),左下腿骨折の後遺障害(14級10号)による労働能力の喪失等を主張して,損害賠償請求をした。
裁判所は,外貌醜状自体についての労働能力の喪失をさほど観念することができないとしても、一方で,顔面の知覚異常による意思疎通についての一定の障害や左下腿の後遺障害については相当程度評価すべきであり,現実の収入上の不利益等も考慮すると,労働能力喪失率は35パーセントと認めるのが相当であると判断した。
【解説】
顔面,頭部などの露出面に傷跡が残ってしまったとしても,仕事に大きな影響が出ることは少ないため,外貌醜状による後遺障害が認定されたとしても,逸失利益は認められにくいのが一般的です。
しかし,裁判所は,顔面の知覚異常や左下腿に後遺障害が残存していることや,現に収入が減少していること等を考慮して,35パーセントの労働能力が喪失したと判断し,逸失利益を認定しました。
掲載文献:交通事故民事裁判例集38巻5号1493頁